対談 第10回:発達障害者が増えている問題点と未来志向の解決法 —さまざまなフィールドの人たちと協力しながら治療の幅を広げたい—(その1)

対談 第10回:発達障害者が増えている問題点と未来志向の解決法
—さまざまなフィールドの人たちと協力しながら治療の幅を広げたい—(その1)

 

対談
宮尾益知(どんぐり発達クリニック院長 医学博士)
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岡本孝伸(株式会社ドコモ・プラスハーティ 業務運営部担当部長)

――このところ、ADHDの人はこういう特性がありますよね、とか、ASDの人の特性にはこういうものがあります、といった情報が多く発信されています。また、ADHDやASDの人たちとの会話の方法など対処法の情報も増えてきました。とはいえ、それらの情報がメディアから発信されている実情と合わせて、現在、患者さんの増加、治療や薬品、さらにサプリメントの効用などについて、医療の現場での問題点はありませんか? また、それらの問題点を改善してどんな将来につなげていくかなど、未来志向のお話が聞けたらと思います。

宮尾 医療の現場の話をしますと、発達障害の診察をしてほしいといって来院してくる人たちは結構います。しかし、そんな中で、私が今少し困っていることがあります。成育医療センターで子どもたちを診だしてからの13年を経て、その後どんぐり発達クリニックを開きました。それから5年目になりますが、私がはじめに10歳で診察した子どももそれから18年が経ち、28歳の大人になっているということなのです。最初に診察をしてからすでに成人している人たちがかなりの数になっているわけですが、彼らを小児科医の私が診察し続けていいものなのかどうか? という問題あります。成人した彼らを小児科医の私が診てまずいという点ですが、小児科医は彼らのどうしようもなかった子どもの頃を覚えているから、どうしても厳しくなれないということがあります。「子どもの頃、お母さんは大変だったよね……」といったことも知っているので、子どもだった彼らがすっかり大人になっていても大人の扱いができないのです。それと、子どもの頃に発達障害の診断を受けた彼らも、良い時も悪い時もずっと一緒に過ごしてきたので、親も子どもも私たちに甘えがあります。もちろん、私たちは彼らと一緒にしっかり社会に出られるようにしてあげようと一生懸命治療や支援を行ってきたのですが、子どもだった彼らもお母さんも成人後も頼ってきて、私たちも保護しているような関係になってしまいます。しかし、これでよいのでしょうか? 大人になっても診察を継続していくと、子どもの頃の苦しかった、辛かった時のことがよみがえってきます。成人した彼らが、不調になり回復させてもう一度頑張らなければいけない状態も生じてきますが、頑張るという気力が私たちの前では甘えになって出てこないことがあります。子どもの時は調子が悪くて辛い場合には学校を休んでもしょうがないといいますが、大人でも同じでいいのかということです。少しずつ会社に行ければいいのではと思ってしまいますが、このようなやり方は一般社会では成り立ちません。フルにやるかやらないか、あるいは辞めるのかということになりますね。患者さんが、私に対して「私、だめなんです。できません」ということがよくありますが、子どもの時には「少し休んでみようね」といってきました。でも、社会に出れば大人の扱いをしなければならないわけです。社会の中で生きていくためには頑張る、最後まで責任を持つことが必要になります。私はこの段階で、大人を診てきた精神科医に患者さんをお願いするようにしています。振っているのです。こうすることで、患者さんが、弱音を吐かなくなり、頑張る気持で生活するようになってきます。

――簡単に、「私、もうだめです……」といった展開にならなくなってわけですね。

 

宮尾 そうですね。やはり頑張るようになるのです。発達障害の人たち、特にアスペルガーの人は、身体の違和感に対して感覚過敏がありますから、違和感を拡大して自分で感じてしまいます。我慢できるのがどこまでかわからなかった人が少し我慢してみようということになりますね。

 

――ちょっとした身体の違和感などですか?

 

宮尾 身体の違和感といってもちょっとした差なのです。たとえば、頭が痛いとか、お腹が痛いといったことです。私たちも調子が悪いことはしばしばあります。しかし、それはどのくらいの量を感じるかということが問題であって、本当に痛ければ七転八倒すると思いますが、どう考えても頭が痛くて七転八倒するわけではなく、少しだけ「頭が痛いんです」「辛いんです」といいながらも七転八倒するまではいかない。でも、発達障害の人たち本人はとても辛くて、学校に行けないということがあるわけです。しかし、大人は我慢して、少し薬を飲むにしても会社に行って仕事をするわけです。私のところから精神科医のところに行くと、それらのことを理解し、そこから“きりっ”とするようになります。甘えられないと思うようです。精神科医はクールなので、彼らを突き放し、「あなたが自分で判断しなさい」といいます。ですから、私たちが子どもの頃から診てきた人たちの中で「辛いけど少し頑張った方がいい。しかし、甘えが出ている」という人たちは少しずつ精神科医に診てもらうようにしています。

 

――ということは発達障害の人たちの中でも小児科から診てもらっていた人たちはあるところで大人の対応に切り替えていかなければいけないということですね。しかし、大人の発達障害の人たちの中には、大人になってから発達障害の診断がついた際に、そこから自分自身で“シャキッ”としましたという話も聞きます。

 

宮尾 結局私たちも大人扱いをしたいのです。しかし、子どもの頃からの悩みも喜びも辛さも私たちはすべて共有しているので、その私たちに対して彼らも甘えが出てくるのです。「あの時は大変だったけどこんなに大きくなってよかったね」という対応の仕方になってしまいます。それで、患者さんの方も私たちのところが居心地いいので、他に移ることがしんどくなってしまう人もいます。それがひとつの問題だと思っています。別の話題ですが、最近、アメリカで行われている治療について説明します。自閉症のリスクのある人たちには、早期に脳の状態を調査して治療を始めるという動きがあります。家族に自閉症がある場合には、そこから生まれてくる子どもにも自閉症のリスクが高いので、早期診断の費用をかけてもよい体制になっています。このようにして早期治療から良い予後が生まれてきています。すなわち、自閉症は生まれた時50%が完成しており、三歳までに50%が進み完成した自閉症になるということもわかってきたわけです。ようするに、生まれた時には自閉症であることの50%は治しようがないということになるのですが、残りの50%をじょうずにサポートできれば、その後の症状は半分です。子どもは一歳前後くらいから脳の中の神経が一度広がり、それら神経が刈り込まれていきます。そこで健常な人たちはきれいに神経が刈り込まれていきます。しかし、自閉症の人の場合には、刈り込まれた神経の余分なものが残っている。小さな細い道のようになって全部残ってしまうのです。どういう物質が足りなくてそうなっているのか? どうしてうまく刈り込まれていかないのかはわからないのですが……。ですから、その部分を解決して予防することができれば、状況が悪くなることはなくなります。ですから、完全に治ることはないのですが、半分は良くなるのです。その点にアメリカの医療は注目し膨大な予算が使われています。さらに、脳と腸の関係についても密接に結びついているということが明らかになってきました。腸は第二の脳ということを聞いた方もいらっしゃると思います。自閉症の人には潰瘍性大腸炎、クローン病がとても多いのです。潰瘍性大腸炎、クローン病専門の先生から、理屈っぽく人とのつきあいが苦手な人の中には学者肌の人がとても多いということをよく聞きます。私たちの患者さんの中にも、潰瘍性大腸炎やクローン病を思春期頃発症する人がとても多い印象があります。自閉症の人の中には幼児期から便秘の人もたくさんいます。自閉症では腸の状態がよくないので、サプリメントで整えようという話になっています。

 

――自閉症の子どもたちに早期で対応することで、自閉症が良くなるというのは、彼らが生活しやすくなっていくということですね。

 

宮尾 良くなるというのは彼ら一人ひとりの根本的な問題です。私たちとしては自閉症をできれば予防したい。

 

――早期で対応することで5~6歳くらいから定型の子どもたちと同じように成長していく可能性があるのですか?

 

宮尾 定型の子どもたちと近くなっていくでしょう。その後も今よりもっと良くなるはずだと思っています。しかし、具体的にはどこもまだはっきりしていません。とはいえ、そういう研究の結果や脳の神経の話などから小さいうちに予防することの可能性を感じるのです。ですから、私たちは小さな子どもたちの治療をやらなければならないと思っているのです。しかし、現状では大人になった発達障害の人たちの治療が大多数になってしまっている。それでは私たちのやりたいことも中途半端になってしまうので、大人の発達障害の人たちをどのようにして我々のところから徐々に離していこうかというとり組みをしています。いわゆる大きな病院で発達障害を診てもらえる流れを作ろうとしています。成人の精神障害を見ている病院に「発達障害の大人」を紹介しようと思うと「私たちは専門ではないので」と、ことわられることがよくあります。

 

――そこには少々問題を感じますが……。

 

宮尾 逆に、発達障害という診断があると引き受けてくれないのですね。発達障害と診断されていなくても同じような人はたくさんいるわけですが。私たちには子どもを診ていくという使命があると思っているので、25歳以上の人を成人の精神科に移行するようにしています。成人の発達障害を専門に診ている病院とも連携が始まりました。医療の現場では、まだまだ児童の発達障害の治療も確立しているわけではありません。療育(ペアトレ、SST OT、ST、心理)、リハビリ、薬物療法、心理学的なアプローチなどですが、これらの内容を実証しながら子どもの持つ特性に合わせて体系化しようと考えています。加えて、発達障害の人は健常の人に近い精神的な症状というものがあるので、彼らにはすでにわかっているこれまでの治療に加えて、サプリメントや整体、ヨガなどの代替え医療、AIやロボットを使った治療などで症状を改善しようとしています。たしかにサプリメントや整体などは科学的なエビデンスを作りながら進めていないので一般的にあまり信用されていないところもあります。とはいえ、米国や英国、仏国では認められていますし、医療系のメディアから発達障害の人に対する代替医療やサプリメントの効果について取材がくるようにもなってきました。既存の治療だけでは十分ではないと皆が思っています。ですから、いろいろなところで実証的な治療効果が認められていけば、発達障害の人たちにとって福音になると考えています。もちろん、私たちは医学なので系統的な医学的アプローチが極めて重要です。しかし、このような新しい考えを持つ人たちと今私たちは歩き出しています。

(続く)

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