対談 第9回:コミュニケーションスキルを身につけることが重要 —多様な人たちの存在が会社の力を実際に上げてくれる—

対談 第9回:コミュニケーションスキルを身につけることが重要 多様な人たちの存在が会社の力を実際に上げてくれる—

 

対談
宮尾益知(どんぐり発達クリニック院長 医学博士)
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岡本孝伸(株式会社ドコモ・プラスハーティ 業務運営部担当部長)

 

――簡単に結論の出る話ではありませんが、これから多様化を受け入れていかなければならない会社や社会の中で、発達障害の人たちとのコミュニケーションを含め、ある種のルール化や法則性は必要だと思うのですが、どのようなルール化が必要かという話を一言ずつお聞かせください。

岡本 会社や社会の中で、「こうやった方があなたが仕事をしやすくなるから、最低限、会社にいる時はこういったルールで動こうよ……」と伝えるだけでもいいのです。たとえば、「私たちはあなたの特性をわかっています。だけど、あなたの周囲の社員とやりとりをする時は、相手はこういうことを気にするので、これとこれは約束としてやろうよ」ということを会社の中で明文化し納得してもらえばよいのではないかと思います。しかし、会社を離れた場合でどのようにそれぞれが違いを認め合いながら全体が良くなっていくかという問題の解決はこれからではないでしょうか。少しずつでも互いの違いを認めなるためのルール化を進めることによって、自由な発想を生かすこともできるようになるのではないかと思います。

――宮尾先生はいかがですか? 昔はいろいろな子どもたちがいて、その中に「自閉症」とされる子どもたちがいたのですが、つぶさに見ると一人ひとりに個性があります。その一人ひとりの子どもたち全体の教育や将来を考えた時、お母さんたちや学校の先生はなんらかのルールを作りサポートしてあげなければならないと思います。

宮尾 その人が何か行動した時に、おかしな行動をすると考えないで、「この人はこの場において、こういう行動をしなければいけなかったんだ」と考える。そういう行動をしたことに対して「自分であればどうしただろう」と、その人の立場になって考えてみる。「おかしい」ということを言うのではなく、「なぜなんだろう?」と相手について考えてみる。たとえば、この場所で誰か走り回っている人がいたとしたら、この中で走り回っているのは、周囲がうるさいから走り回っているのかもしれないし、落ち着かないから走っているのかもしれません。そういういくつかの例を考え、あてはめていけば相手の立場を考えられるわけです。さらにコミュニケーションにおいて、日本では必ず「他の人の意見を聞かないで、自分の意見を言いなさい」とよく言われますね。他の人の真似をしてはダメと言います。しかし、前の人の意見を参考にしたうえで自分の意見を言うことにすれば、話はまとまってくるのです。一人ひとりがまったく方向性の異なった話題を出しても会話はまとまりません。前の人の話を聞き、次の話を言うことに決める。たとえば誰かが「殺す」などのひどい言葉を発したとしても、「その言葉って、自分の心にはないのかな」と考える方がいいと思うんです。誰でも相手に憎しみがあれば「あんなヤツ死んじゃえ」とか、「転んで落ちればいい」など思うわけです。ですから、言葉にしてしまうとすごく大変な言葉にはなると思いますが、心の中で思っていることを言葉にするかしないかの問題じゃないかと考えた方がいいんですね。そうなると、彼らからは、「うるせえな、ぶっ殺すぞ」みたいな言葉が出るケースもあるわけです。しかし、その言葉に反応してはいけない……。
岡本 そのことについては私もものすごくそのとおりだと思います。会話の中でそのようなことはしばしば起こりますが、でも、周囲のスタッフには、「それって全然自分たちも変わらないよ、ただ言っているかどうかの違いに過ぎないんだよ」と言いますね。

――そのような場合、往々にして「すごく凶暴なヤツだ」「危険な感じがする」というレッテルを貼ってしまいがちですが……。

岡本 ですから、そこで、そのようなラベリングをしてはいけないのです。

宮尾 定型発達者はそのように言いません。しかし、「言っているヤツがおかしい」ということではありません。自分自身の中にも言わないけれど、そのような思いもあるんです。「会社なんか爆発してしまえ」や、もう仕事に行きたくないので「会社がなくなってしまえ」とかです。もちろん誰もそんなことは言いませんが、特性のある人の場合には、そういうことを思ってしまうと、言ってしまう人がいたりするのです。

――その際の周囲の受け止め方は、どのようにすればよいのでしょうか。聞いてないふりをするとか?

宮尾 いやそうではありません。「まぁ、たしかにね、会社は鬱陶しいからなくなってもいいと思うけどね。でも、考えてみると会社なくなったら給料はもらえないし、行くとこもない。毎日ゲームセンターに行ってもしょうがない。やはり会社はあった方がいいんじゃない。あったほうがいいんじゃないかなぁ」と言います。そうすると「あー、そうなのか。その方がいいのか」となります。

――それでも本当に行動に移す人などがいたりするのでは?

宮尾 いや、「会社を爆発させる」というようなことを周囲は絶対に言ってはいけないです。そこに焦点をあててはダメなのです。逆に、とても大変だということを話します。「会社を爆発させるのって大変だよ」と。

――そういう対処や支援をしないで、彼らが「そうだ。会社に行きたくないから会社を爆発させよう」と思ってしまったら、本当に爆発させてしまうのではないかと……。

宮尾 違います。「そういう気持ちには誰でもなるよね。だけど会社を爆発させたら働くところがなくなり、給料ももらえなくなるし、明日から行くところもない。つまらないからそれはやめた方がいいんじゃないか」と話せばそういうことはしないのです。逆に、「今は爆弾を作ることもできるようだけど、そんなことをしてはだめだよ」と言うと、そんなすごい爆弾ができるのか! と考えどんどんそちらの方向に進んでしまう。

――中には罪を犯してしまう子もいますから、先生のように「そうなっちゃったら大変だよ」とフォローをしっかりしなくてはなりませんよね。

宮尾 以前言ったことがありますが、包丁を集めている子の話です。私が彼に、「あなたはなんで包丁を集めているの? お母さんはそれで人を刺すんじゃないかと心配しているよ。あなたは包丁で人を刺すのか?」と尋ねたわけです。そしたら「僕は刺しません」と、しっかり言っていました。「どうして? なんでやらないの?」とさらに尋ねたら、「僕が刺したら新聞に出て、お父さんとお母さんが悲しむから」と。たしかにそれはそうですね。さらに、刺された人の痛みがわかりますか? と尋ねかけましたが、刺された人は死んでいるからもう痛みも状況も理解できません。刺された人は痛みを語る術がないわけです。そこで私は、「向こうの刺された人にも親がいるんだよ」と言いました。そうしたら包丁を集めている彼は刺すことによって双方の親が悲しむということを納得し、そこで初めて「そういうことをすることはいけないことだ」と気がついたのです。

(続く)

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