対談 第8回:発達障害の人たちのコミュニケーション —殻から飛び出し周囲の人々の話を聞く習慣が大切—

対談 第8回:発達障害の人たちのコミュニケーション—殻から飛び出し周囲の人々の話を聞く習慣が大切—

 

対談
宮尾益知(どんぐり発達クリニック院長 医学博士)
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岡本孝伸(株式会社ドコモ・プラスハーティ 業務運営部担当部長)

――発達障害を自分自身が認知することによって、生活がスムーズになるということがよく言われています。宮尾先生が治療されているのは、おもに子どもなのですが、たとえば大人になって「生きにくいなぁ、暮らしにくいなぁ」と感じて先生のクリニックにくる患者さんたちもいらっしゃると思います。大人になって感じた「暮らしにくさ」ですが、自分の特性を理解することによって、大人になってからも「生き方を楽にする」ことは可能なのでしょうか。

宮尾 注意欠如多動性障害(ADHD)の人はそんなに難しくはありません。後で振り返ってこういう時はこうすればよいとパターン的に決めてしまう、周囲の人に助けてもらえるキャラクターになるなどです。自閉症スペクトラム障害(ASD)の人の場合には難しいところがあります。一般的に人々は多様な考え方というものを自分の周囲から吸収するわけですが、しかし、自閉症スペクトラム障害の人たちは周囲を見ていませんから、多様な考え方をほとんど吸収していないわけです。自分の独自の考えで、読んだ本の内容だけで自分の思考を作り上げてしまいます。こうして構築された考えを変えるのはものすごく難しい。そのようにして18歳くらいになった時には、もう考え方がかなり固まってしまいます。

 

岡本 逆に言うと常識に囚われないわけです。ものすごいことを考えていたり、私たちが考えていないようなことを言い出したりする可能性もあるんです。

 

宮尾 それはもちろんあります。物の見方が違いますから。

岡本 だからこそ、彼らを含めて組織を構成していかないと、これからは残っていけないのではないかと思うのです。彼らが変化対応力を担っているんじゃないかと……。

宮尾 ただし、基本的にはどれだけ子どもの頃に周囲からいじめられたり、変わった子どもだと言われてきたかということもあります。岡本さんがおっしゃっているのは、周囲からいじめられたりしないで大人になった人だと思います。まわりからいじめられ、変な子だと言われ、自分の中にこもって暮らしてきた子たちは話の中もコチコチになっています。柔軟性がなく、人の意見を取り入れないようになってしまっています。ただ「人とは違うけれど、比較的勉強もよくできて、少し変わっているけど、まあいい子だね……」と言われてきた子は大丈夫です。

岡本 そうですね。やはりできるだけ早期に介入していかないと、私たちが会社で受け入れられる人が育たないのかもしれません。子どもの頃に周囲から潰されてはダメなのです。子どもの段階で早期に彼らの特性を認め、持っている才能を伸ばすという教育をしていかないといけない。そこに行き着きます。

――しかし、子どもの時から特性を認める行動を周囲が行っていかなければならないとなると、もちろん、企業は介入できません。そうするとやはり先生のところで一人ひとり診察していかなければなりません。

宮尾 先日、教師に叱責されて14歳の中2の子が自殺した事件がありましたが、やはり教師の存在は非常に重要です。事件のあった中2よりもさらに小さな子どもが私のクリニックにやってきました。その子どもは小学校の1年生くらいの時に教室で大暴れをして教室の壁に大きな穴を開けてしまいました。とても頭の良い自閉症スペクトラムの子どもでしたが、教師に徹底的に攻撃されました。こうしてこの子どもは潰れていってしまいました。しかし、3年生くらいの時に担任が女性の先生に変わりました。その先生はその子をすごく褒めるのです。もちろん適切なやり方ですが。そうしていくうちにその子どもはまったく変わりました。よいところを褒め、よくないところは無視、よくなるともっと褒めが続いていったわけです。その後はなんの問題もなく学校にも通い、もうすぐ有名校を受験するそうです。

――8歳や9歳くらいの時なら変われるのですね。

宮尾 そのくらいの年齢ならギリギリ変われると思います。担任の先生が変わりその子が良くなっていったということで、1年生の時の担任の先生がその子に謝りにきたと言っていました。その子は、小学校1年生の頃には「死んだほうがましだ」と言っていたのに、3年生になり、新しい担任の先生のおかげで良くなっていったわけです。ですから、1年生の時の担任の先生は、「自分の教え方が間違っていた」と思って、「ごめんなさい」と謝罪にきたと、その子のお母さんから聞きました。教師の対応だけで未来はまったく違ってきます。時期ももちろん大切ですが。


岡本 ティーチャーズトレーニングやペアレントトレーニングといった子どもの褒め方を学んでもらうトレーニングがありますよね。根幹には、よい行動は褒め、悪い行動は無視するという応用行動分析の考え方が取り入れられていますが、私たちはこれを学んでいます。少しレベルが高くなると相手の立場と気持を考えながら行っていきますが。人を育てていくためには意識的に人を育てるという考え方を持たなければいけないのではと思っています。行動の元がなになのかを学ばずに育てることは至難の業です。自然体で向き合ってうまく人を育てるということは一部の才能を持った人にしかできないと思っています。私たちは叱られながら学び、なにくそと立ち上がり育ってきた世代なので、叱ることも愛情だと思って叱ってしまうことが多々ありますが、その気持ちを切り替えていかないといけないと思います。さきほど述べた、ティーチャーズトレーニングやペアレントトレーニングで行っている方法はどこにでも応用の利く考え方なので、同僚に仕事をお願いする時にも使えます。「お願いする時にはこうした方がいいよね」とか。そういうことをもっともっと学んでいかないと人を育てることは難しいですね。

 

――それらのことを学びながら、発達障害の人たちを支援するためには、発達の特性も理解しなければなりません。なかなか大変なことだと思います。

岡本 もちろん理解しなければ支援は広がっていかないですね。

宮尾 私が思うには、たとえばドコモの管理職の方々の中にもADHDやアスペルガーのような人がいると思うのです。しかし、組織の中で働く最終的な目標としても、たとえばドコモのような有名な会社の部長になって社会の中で役立てるようになればどのような特性を持とうと関係はありません。むしろポジティブな特性になるわけです。特性を持っている人がいる。この人の特性により会社は発展していく、差別的に考えないことを世間に周知させ広めることは必要なことだと思います。そうしないと子どもの発達障害が差別されたままになってしまいますから。発達障害がありながら大人になって、会社の中ですばらしい仕事や研究をしている人もいるということを私はもっともっと知らせていったほうが良いと思うのです。

岡本 社内にもASDやADHDの傾向のある人はいますよ。先日失敗してしまったのは、ある会議の場でプラスハーティの今後の取り組みの話をしていた際に、「ところでアスペルガーやADHDの人は、東大などにもたくさんいます」と言った後に、会議に出席している人たちのほとんどが東大出身だと気づきました。少し極端に言い過ぎてしまったと慌てました。その後「革新的なことを起こしたり発明したりする人たちはそういう人たちなんですよ」とフォローしましたが、でも本当に新しい発想で物事に取り組む人の中にはASDやADHDの特性を持った人たちがたくさんいると思います。

――たくさんの社員がいるので、やはり特性の強い人たちも多いのでしょうね。

(続く)

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