対談 第7回:怖いラベリングと薬の話

対談 第6回:「怖いラベリングと薬の話」

対談
宮尾益知(どんぐり発達クリニック院長 医学博士)
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岡本孝伸(株式会社ドコモ・プラスハーティ 業務運営部担当部長)

 

――2018年4月からは「障害者法定雇用率」が2.0%から2.2%に引き上げられ、2021年3月末までには2.3%になる計画です。各企業は対応に迫られます。

これまでのお話しで、医療機関を受診することで、発達障害の中の診断名を知ることができたうえで専門医からのアドバイスを受け、症状の改善や周囲の理解が深まり、就業状況も好転するということがわかりました。これからは発達障害の彼らの症状や特性を把握し理解することで、企業の中でもマネージャー育成や特性の理解がますます重要になるのではないかとの話になってきました。

 

岡本 発達障害の人たちに対して、周囲がラベリングをするかしないかより、彼ら自身が自分の特性を知るということは重要ですよね。

宮尾 そうですね。

岡本 ラベリングをすることはものすごく怖いことだと思います。社内でも発達障害の理解を深めるための研修をしようとしているのですが、怖くてずっと行ってこなかったのです。研修だけでは障害に対する偏見がなかなかなくならないし、障害特性だけにフォーカスしてしまいがちになるだろうと。たとえば、ある人が発達障害と診断されたとします。すると、「発達障害の特性を持った彼は自分たちとは全然異なる存在なんじゃないか」という見方を周囲がするようになってしまう。研修などで中途半端に知識を得てしまうと、「発達障害だから」というすごく乱暴な言い方やくくりをして、そこに“ポン”と取り込むような方が多いのではないかと思うんですね。しかし、私にしても障害と言わないまでもいろいろな特性を持っています。実際にネットにある発達障害の簡易テストを受けてみたことがありますが、まったく該当する項目がないなんてことはなくて、ちょっとADHDの傾向がアスペルガーよりも該当する項目が多いという結果が出てきたりもします。「発達障害だから」というラベリングをすると、そういう強弱の問題としてとらえることができなくなってしまいます。ドコモ・プラスハーティでは、「発達障害だから」といってラベリングするようなことのないように、障害を理解してもらうためにマンガの中でキャラクターを使い、特性の強弱などについてわかりやすく情報を発信しています。決して冷たい感じの研修をすることはしたくありません。常に障害と接するのではなく一人の人間と接しているんだ、人間を見ているんだという感覚でいたいのです。以前、宮尾先生に社内で研修をお願いした時も、「あなたにも特性があるんですよ」ということを参加者に伝えていただいたのですが、こういうことで、人間理解につながらないと、結局、企業は多くの人びとが働く環境を上手に創り出せないということになります。そこを上手にやることができれば、競争優位を創出するための人間理解といった発想も社内で共有できることもできると思うのですが、そうでなければ分けて隔てて社員をつぶしてしまい、会社は逆の方向に向いてしまいます。こういう意識を持つことは結構デリケートなことだと思います。

——会社に限らず、日本はある平均値の枠から出てしまうと、異質な人とみなされてしまうケースも多いですよね。逆に欧米などは障害者に対しても日本より親切だったり、少々突出した個性を持っていても理解されることも多いと思います。

宮尾 以前、アメリカのマサチューセッツ州ボストンに行った時、車椅子で行動する人たちがたくさんいることにびっくりしました。日本で車椅子は時々しか見ないからです。米国の人口は我が国の倍ですが割合はあまり変わりないはずなのに、町の中に障害のある人もない人も堂々と一緒に生きていると感じました。発達障害についても同じです。私の留学先のボストン小児病院のてんかんセンターでのことでした。てんかんの子どもたちを病気だけでなくこころの面でも総合的にサポートするといった考えを世界に先駆けて打ち出したところでした。ボイストン小児病院では1年に一度難病の子どもたちが、TVに向かって自分の病気を説明し寄付のお願いをします。するとたくさんの人たちが行列を作りながら小切手を持ってきてくれます。毎年、全部で3億円くらい集まり、子どもたちの病気の治療や研究に役立てます。病気や障害があることに対してまったく差別的ではなく、ともに助け合っていこうとする暖かい思いが感じられました。かわいそうだからではなく、一人の人としてできるサポートをする。そこが驚きでした。

——その子どもたちは発達障害なのでしょうか?

宮尾 1983年頃ですから、その頃はまだ発達障害という概念はありませんでした。私が出会ったのはいわゆる難病といわれている子どもたちです。重度の病気で筋ジストロフィ症や治療方法のない神経の病気の子どもたちでした。

岡本 欧米は自分たちとは違っている人たちがいるという文化なので、自分は何者かを発信して受け入れてもらうという土壌があったのだと思います。彼らにとっては、黙っていた方が「怖い」ことなのではないでしょうか。「自分はこういう人間だよ」と言った方が、周囲が受け入れてくれるのだと思います。「あなたはそういう病気なんだ、なるほど」と。日本の場合には「阿吽の呼吸」という感覚があるので、自分は何者であるかを言わない。まず「目を見て判断しろ」などと言うほどです。むしろ「周囲に自分を合わせなければいけない」といった無言の圧力が働いているので、その空気に合わせることができないと、周囲から、「ちょっとあの人は……」と思われてしまいます。とはいえ、そこからいきなり「排除」の方向に向かなければよいと思っています。唯一の希望は、障害者の比率が6%と出ていますが、その数値が決して他人事ではないと多くの人たちが認識しはじめていることです。「明日は自分自身にも関係のある問題になるかもしれない」と、そのように考えてくれる人たちがますます増えてくれれば良いと思っていますし、多くの人たちへの意識付けを意識的にやっていかなければ、この国は、「私はこういう人間なんです」ということを周囲が受け入れることのない状況に陥ってくるのではないでしょうか。

——日本文化論になっていますが、もう少し発展させてお聞かせください。

岡本 会社の中で他者を受け入れる意識付けを行っていると、それは結局、組織文化論に向かわざるを得ないかと思います。

——やはり会社というところは“就業”という時間に縛られるわけです。さらに利益を出さなければならないし、結果も重要視されます。たとえば、毎月の締め切りといったストレスの要因に対して発達障害の人たちは苦手な意識を持っているのではないでしょうか。

岡本 いえ、時間意識を持たせると大丈夫な人も多いのです。自閉傾向の強い人たちにはあらかじめ仕事で起こることを予告し見通しを立たせてあげると、わりと変化に対応できるのです。問題はいきなり状況が変化することで、そうなるとあたふたしてしまいますが、会社組織の中でのさまざまな縛りの中で就業していくことは可能ではないかと思います。

——たとえば遅刻などの問題もあると思うのですが。

岡本 それはまた別の問題です。生活領域のコントロールがうまくいっていないわけです。就寝の時間が少し乱れがちである、寝つきが悪いといったことは生活のコントロールの問題になります。

宮尾 発達障害の人たちには睡眠障害もよくみられます。睡眠障害に関しては医者も患者さん自身の生活習慣の問題として理解している場合も多く、眠れないという訴えに対しては、病気として考えない場合も多く、睡眠薬を処方するという対処療法になりがちです。

岡本 会社の側も、今までは得ていなければならない情報を取っていなかったのではないかと思います。たとえば、ある社員がやる気なさそうに見えるのは薬の副作用が原因なのか、それとも本人が本当にやる気がなくなっているのか見分けられていない場合があります。そこで、薬を飲んでいるためにやる気がなくなっている人を叱責すると、本人にとっては辛いだけです。その部分で踏み込んだ情報を取らなければならないとは思います。やはり手帳を持っている人たちに対しては強く思います。本当は手帳を持っていなくても「私は○○○という薬を飲んでいるので、ある傾向が出ます……」と言ってもらえれば考慮することもできるのですが……。

——薬の副作用も理解しておくべきと……。なかなか大変です。

岡本 大変ではありますが、発達障害の人たちは同じような傾向の薬を使いますから、どういうところに薬の作用が出るかということを一通り学んでおくことで、「ああ、この薬の特徴が出ているね」というように働いている人たちの状況の細部までわかると思うのです。

宮尾 医者は薬の効果や副作用はいちおうすべて説明をするようにしているのですが、稀なことも言わなければならないのと、なにかが起こった時の対応が重要だと思っています。私は勤務時間中は緊急の場合、電話で直接対応をするようにはしています。

――2017年6 月から新しく認可された薬もあるようですが……。

 

宮尾 インチュニブですね。ADHDの人たちに効果があります。ADHDに効果のある3つ目の薬です。ただ基本的には製薬会社が薬を販売をする時や国が薬の販売を許可する時は、ADHDのどの症状にどのように効くのかというのではなく、ADHD全体に効果があるとして販売されるのです。ADHDの人たちに処方した結果、「半分以上の人というか、それぐらい有効な結果が見られました」「スコアが有効でした」と言って販売しますので、薬が新しく出たばかりの時は、私たちもそれまでとどこが違うかがよくわからない。私たちは新しいADHDの薬が出ましたと情報を得るだけで、細かい個々の情報はまったく開示されないからわからないのが現状です。とはいえ、私は今ADHDの薬をさまざまな方々にたくさん使っており、どのようなタイプの人にどの薬が有効かについて研究しているところです。

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