対談 第6回:「多様化」の社会でのルール作り(その2)

対談 第6回:「多様化」社会でのルール作り(その2)

対談
宮尾益知(どんぐり発達クリニック院長 医学博士)
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岡本孝伸(株式会社ドコモ・プラスハーティ 業務運営部担当部長)

 

――現在の「障害者法定雇用率」は2.0%ですが、2018年4月からは2.2%に、2021年3月末までには2.3%にまで引き上げられる計画になっています。各企業は対応に迫られていますが、その数値は関連会社を含んでいるということですね。

岡本 特例子会社があって、親会社と関連会社を含んだグループで算定する場合と、特例子会社と親会社のみのグループで算定する場合があります。結局、障害者手帳を持っている方だけが障害者雇用数の対象となるのですが、当然、その方に障がいがあることはわかっているわけです。その方たちの中には、「こういう場合にはこうした方がよい」という自分自身の取り扱い説明書のようなものを作ってこられる方がいらっしゃいます。たとえば、「ボクはこういうところに配慮をしてもらえれば力を発揮しますが、それについての配慮はしていただけますか?」というようなことを入社のときに伝えていただけたら、それに対して、私たちも「わかりました。ここまではできますが、でもここは少し難しいです」とお話をして、お互いに理解をしたうえで雇用契約を結びます。簡単に言うとこれが合理的配慮です。相互理解をしたうえで年を経るわけですが、「最初はこういう予測でこういう約束だったけど、その後は少し調整しないといけないですね」といった変動を定期的に確認し調整していくことが、手帳を持っている方たちとの接し方なのです。そして、この方法を通常の社員にも当てはめていってもよいのではないかとも思っています。「私はこういう考え方をしていて、ここは得意だけどここは苦手です」、そのように社員がいった場合にはマネージメント側は柔軟性を持ってすり合わせを行い、各人の得意分野を伸ばしていくということをしていけばよいと思います。結局、組織全体のトータルとして成果を出していくということです。私は、そのような理解をしてくれるプロのマネージャーを育成したいのです。

――ダイバーシティーに対応した考え方ですね。そうしないと今後の社会に対応していけないのでしょうか?

岡本 対応できないと思いますし、今後広がっていくグローバルに展開する社会のなかでは勝てなくなると思います。この部分は宮尾先生が一生懸命やっていらっしゃるギフテッド(ある優れた才能を持っている子ども)の育成にもつながるところです。
――多様性を含んだ会社という組織の中で、手帳を持っている方たちの就労を支援していくことについて、宮尾先生はどのようにお考えですか?

宮尾 手帳を持っている人が就職する際には、やはり職種などに制限が出てくると思います。職業としてやりがいがあるからといっても、反面危険性もありますから、どうしても「ある部門」に狭まってくることはあると思います。「本当はもっと力があるんだ。もっとレベルの高い仕事を狙いたいんだ」という手帳を持った人もいると思います。自分のよいところだけを認めてくれるなら、他の人たちよりもある部分は勝っていると思っている人は、障害者雇用ではなく、実際に通常の入社枠で入社してくるケースもあります。しかし、会社に入った際にマネージメント側に障害者の人たちにどのように働いてもらえばいいかわからないことが多い。わからない人が上司になるとやはり特性の強い人や手帳を持った人は壊れてしまい、やめざるを得ない可能性もでてきます。さらにもう一点指摘をしておきます。たとえば、特性の強い人たちは一度頭に入ったことにこだわります。つまり、「人に迷惑をかけてはいけない」とか「嘘をついてはいけない」ということを聞いた時に混乱することがあります。実際の大人の世界では人に迷惑をかける人もいるし、嘘をつく人もいます。いった通りにならないことが多々あるわけですが、彼らにはそこが許せなかったりするのです。ですから、「仕事は100%手を抜かず一生懸命やらなければならないといわれると、必死に頑張ろうとして緊張し身体も心も硬くなってしまうこともあります。彼らは0か100かなのです。その特性によって会社や上司とぶつかってしまう。入社前の面接の時に、「うちの会社はあなたのような素晴らしい人をしっかり育てますよ。ですから、話はなんでも聞きます」といわれたら、彼らはその言葉を信じます。そして、入社後になにかでつまずいた時、彼らからは「全然育ててくれない」とか「与えられた仕事がつまらない」といった不満が出てきます。そこで上司に相談にいくのですが、そこで「忙しいから後にしてほしい」などといわれてしまい、「面接の時に聞いた話と違う……」となってしまう。実際、上司からすれば入社1年目の社員は社会人として一人前ではないし、素人扱いされてしまうわけです。

 

――会社を辞める場合は往々にしてそういうケースに陥っているわけですね……。

宮尾 たとえば、私たちにしても社会人1年目の時はさんざん「仕事ができない」と上司からいわれているわけです。私たちはそれを愛情と思っている。しかし、発達障害の人たちはそうではありません。仮に、上司から「キミはバカだなぁ」といわれると、彼らにとってそれは自分を認めてくれない侮辱ということになります。その時「本当に馬鹿にしている」のか「愛情をもって教えている」かの区別がつかず、言葉をそのままとらえてしまいます。先日も私のクリニックを訪れた患者さんに「どうやって就職したらいいですか」と尋ねられました。そこで私は、「1年間はバカといわれて叱られるけど、それは普通のことなのでその言葉は上司からの愛情と感じなさい」といいました。会社に入った最初の頃、仕事は見習いのようなものですからつまらなく感じます。それを我慢できずに辞めるケースもあります。しかし、上司の言葉をそのまま信じてしまって会社や仕事を嫌になってはいけないという話をします。そしてできれば障害者雇用の中で理解してもらえればいいと思います。岡本さんの考えも聞きたいのですが、上に立つ人が障害者の人たち一人ひとりの良いところを認め、なおかつ障害者の人たちから「あの人はボクよりすごい」と思われるようにならないとダメではないかと思いますがどうでしょうか。マネージメントする人たちが一人ひとりに対して「あなたの良いところはここだよ」といってあげる。そうすれば、障害を持った人たちはマネージャーの人たちをリスペクトします。そのようなマネージメントが必要かなと思います。仕事の指示や仕事を教えることは優しいだけではダメ、もちろんきついだけでもダメ。どのようにして障害を持った人たちをマネージメントできる上司になるのか考えなければならない。たとえば、発達障害の人たちから、「私はこういうふうにしてもらうとうれしいです。仕事がはかどります」といわれた時に、雇用者側は「よくいってくれましたね。ありがとうございます」といえるくらいにならないといけないと思います。

 

岡本 入社の後はさまざまな調整があるのですべては叶えられないのですが、障害を持った方により気持ちよく仕事をしてもらったほうがよいわけです。以前、LGBTを秘密にして仕事をしてこられた方が、LGBTであることをカミングアウトしたところ、秘密にするためのエネルギーをすべて仕事に集中させることができるようになり、効率が上がったという話を聞いたことがあります。周囲の人たちの意識に合わせようとするため、余計なエネルギーや能力を費やしていたのです。しかし、おたがいにLGBTであることを理解し、素直に、いろいろな人たちが集まって仕事をしていることをわかったうえで仕事をしたいですよね。特に都市で仕事をする場合には、生活するゾーンから離れてしますので、生活者としての人間的な部分を家に置いてきてカッコをつけて会社にくるわけです。全体が

「職場とはこういうものだ……」という同じ思いがとても強くなってしまいます。そこでは人間臭さが忘れられがちになり、ギスギスしてしまいます。たとえば、生活ゾーンに近いところで仕事をしている場合には、生活を少し引きずりながら仕事をすることもできるので、時々、人間臭さが残っているんじゃないかと感じることがあります。ですから、都市の中で働いていても人間的な自然さを大切にしながら働けたらいいのではないかと思います。特にビルの中で働いているとつけなければならない仮面が多すぎるのでは? と思うことがあります。

――それは具体的にどういうことなのでしょうか?

 

岡本 しぐさや言葉、行いや対人関係などのいろいろな部分で、少し仮面をとるような方向でコミュニケーションをしてみると、そこではじめて「実はこの人はこういう人なんだ」と理解できることがあります。おたがいに仮面をかぶっているあいだは「この人どんな人なのかよくわからないな……」と。たがいにそう感じていると思うんです。おたがいを理解するための環境を作るにはどうしたらいいんでしょうか。社食をつくってみんなで食事をすると親近感が湧くとか、そういう取り組みをしている会社さんもあります。相互理解のための方法として、ともに食卓を囲むという考え方を取り組みの中に入れてもよいと思います。

――宮尾先生の場合にはさまざまな患者さんがクリニックを訪ね診断を受けます。そして、「君はこういうキャラなんだよ」と理解してもらい社会に送り出す側です。企業側は逆に、どういう特性の方が入社してくるかわからないわけですよね。受け入れる企業の側が「いろいろな人たちがいるからね……」と理解をして受け入れる。診断をして送り出す側と受け入れる側に相互の理解があれば、就労のマッチングもうまくいきますね。就職する人たちも、「企業の中にはいろいろな人がいるし、自分のことを待っているかもしれない」と思えます。

岡本 就労の問題にはさらにもう一つのパターンがあります。それは、手帳を持っていない人の自覚です。それがないと少しきついと思います。上司も事物を見る時には必ずフィルターがかかっています。どんな人でもそうですが、上司自身も生育歴や経験によるフィルターをかけて事物を見ています。そのことを上司自身が自覚しないと偏りを持っていろいろなことを評価してしまいます。ですから、上司は一旦そのフィルターを取るトレーニングを行い、自分自身がどういう事物の見方をしているのかということを身につけたうえでなければ、本当に素のままの特性のある新しい社員を観察するのは難しいことだと思うのです。

――たしかに手帳を持っていなくても、特性がある場合、それを理解するためにはお医者さんや上司から「あなたにはこういう特性がありますよね……」といった適切なアドバイスをもらわなければわかりませんね。

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