【対談】第2回:「うちはいい会社だよ」といってはいけない

対談 第2回:「うちはいい会社だよ」といってはいけない

宮尾益知(どんぐり発達クリニック院長 医学博士)

岡本孝伸(株式会社ドコモ・プラスハーティ 業務運営部担当部長)

―― 宮尾先生が考える発達障がいの方たちの働き方と岡本さんの思う方向性がほぼ一致していたということですが、とはいえ、組織の中での具体的な問題は山積みと思います。

 

岡本孝伸(以下岡本)今の状況は、組織のなかで、せっかく強みを持っている人でも、その強みを発揮することが容易ではないということです。結局、組織のマネージメントがうまくできていないという話になります。知的障がいの人、発達障がいの人、そして、その他の人たちに対するマネージメントは共通なんです。究極のところ、健常者に対するマネージメントと一緒のはずなのです。しかし、今の組織を見てみると、突飛なことはできない。すでに出来上がったものを維持することに長けた人たちが大勢を占めているという閉塞感があるんですね。この状況を打破するためには、常識にとらわれない発想ができる人や、さまざまな部分で振り切っている人たちがしっかり力を発揮できる会社が必要であり、そういう受け皿を作っていかなければならないと思うわけです。

 

―― 組織や全体の思考が、物事の考え方を振り切る人たちを救う感じではなく、振り落とす状態になっていると……?

 

岡本 そうなんです。みんな凡人なのに、凡人が(発達障がいのある人の中にいる)天才をつぶしていくわけですよ(笑)。

 

宮尾益知(以下宮尾)そのあたりは医者の世界も一緒ですけどね……(笑)。ただ、やはりそのような状況ではいけないと思います。それからもうひとつ、知人のコンサルティングの方に聞いた話ですが……。彼が私たちの研修会や講演に参加したことがあったのですが、私たちの話す内容は海外の有名な経営やコンサルティングのセミナーの中身と同じだといっていました。結局、ADHDの“ような人”、自閉症の“ような人”、学習障がいの“ような人”という大多数の人たちが、私たちが通常考えているやり方で十分に仕事をやっていけるわけです。ですから、今、私たちのまわりにいるうまくいかない人たちに対しても、この三つの“ような人”に対するように教育をしていけばうまくいくと思います。それにしても、私たちが通常考えていることを学ぶために、海外にいったり高い費用を出しているんですね……。

 170801 宮尾先生岡本さん対談写真③

岡本 その海外の例はNLP(神経言語プログラミング)ですよね……。

 

宮尾 ですから、今、私が思うひとつのアイディアは、最初から知的に高い人を教育していくだけではなく、典型的な自閉症の人たちに仕事をしてもらうためにはどうすればよいのか? ということを皆さんがわかることだと思っています。わかってしまえばあとは応用が利くので、その後は知的に高い人たちやその他の人たちへの対応も簡単になります。とはいえ、私たちがこれまで知的障がいの人たちの心を知るために、周囲の大人など知的に高い人たちから話を聞いてさまざまな判断をしてきました。そうすると、知的に高い人たちが知的障がいの人の考え方に言葉をあてはめていくことがあるんですね。結局、小さい子どもの頃から、自分はどういう状況にあるのかということを大人が言葉をあてはめてしまう。

 

岡本 そうですね。知的障がいのある人たちはやはり言語化能力が十分ではないので、その点もストレスをためる原因になるのではないですか? 普段、私たちはいつも身のまわりで起きる事象について勝手にいろいろな物語を作っています。これはこういうことだろうと、とりあえずの物語を作って安心し、それについてはもう考えないでおこう……、といった推量を常にしているのですね。しかし、知的障がいのある人たちはそういうことをしないので、いつも気が張っている状態です。おそらく、ジャングルのなかにリスがポツンといるような状況で、ものすごく警戒しながら生きているはずです。ですから、身体の硬さからくるストレスに加えて、周囲を警戒しているストレスの両方がずーっと長く蓄積されています。その結果、3年とか5年経ったところで、突然、パタッと会社にこなくなってしまったりします。

 

宮尾 そうなんです。

 

岡本 本人はなにが原因になっているのかがいえない。ただ会社に行きたくないということをいうようになり、やがてそれが積み重なって「ボクはダメだ……」となってしまいます。上手に状況を語ることができません。そして、過去の出来事がフラッシュバックのように思い出され傷ついてしまう。そうなった人がなんとか出社してくると、もうぼろぼろな状況になっています。上司や周囲の人が普通に注意をしても、彼らから「人間性を否定された」みたいにいわれることがあります。また、彼らは過去の嫌な思い出を引っ張り出してきたりもします。我々の会社にもそういう状態の人が何人かいます。

170801 宮尾先生岡本さん対談写真①

宮尾 結局、自閉症の彼らは声のトーンや匂いなど、そういうことで過去の出来事をフラッシュバックのように思い出すのです。ですから、具体的な物事というより、なんとなく思い出しただけで「ギャ!」と嫌なことを思い出してしまう。彼らは注意された内容や具体的な言葉に反応しているのではなく、なんとなく過去に聞いたような音や、叱られたような調子で嫌なことを思い出し、過去のその場にいるときとまったく同じ状態になってしまうのです。

 

―― 失敗体験を思い出す、といった感覚でしょうか。

 

宮尾 そうですね。私のクリニックにやってきた方は、会社に勤めはじめて2年ほど経っている人でしたが、前述のような状態になっていました。それからもうひとりは、女性のアスペルガーでしたが、お役所に勤めていた方がまったくそういう状態でした。ほぼ全員、倒れそうな状態でクリニックにやってきます。まったく勤め先に行けなくなってしまうわけです。身体が動かなくなる。お役所に勤務していたアスペルガーの女性もへとへとでした。実際、つい先日も24、5歳の女性が自分で歩けなくなってしまい、私のクリニックの診察室の前でバタンと倒れてしまった。それほど発達障がいの人たちはみんな働く先で疲労しています。

 

―― 診察を受けるためにクリニックにやってきて、ようやく到着した瞬間に倒れてしまうのですね……。

 

宮尾 診察室の前で動けなくなってしまうんです。結局、2人も3人もそういう状態の方が現れたわけです。いちおう血液検査などをやるのですが、そこでわかったことは、身体的に問題はなにもないということです。肝臓や心臓などすべて、びっくりするくらいまったくなにもない。そんなに見た目にひどい状態でも身体的には健康なんです。ぼろぼろになって倒れてしまった女性たちはその後、勤務先から離れて家でリラックスして休んだのですが、3日ほどで元に戻りました。彼女たちは会社の事務を担当していたのですが、結局、マネージメント側の問題としては、倒れる状態になってしまう子たちに対して、「どのくらい休んだら元通りに働けますか?」と聞いてあげなければいけないのです。実際に見当がつかないわけですし、おそらく、彼女たちが同じようなペースで仕事を再開すれば、いずれまた倒れてしまいます。そのことはもう明白なわけですね。そこで、私は倒れてしまった事務をしている女性に尋ねました。「仕事の時間はどれくらいであれば、会社にいけますか?」と……。彼女は、「私は、午後3時を過ぎるとものすごく疲れるんです……」と答えました。彼女の答えをもとに考えると、午前9時から午後3時で、週4回なら問題なく会社に行けるということになりました。彼女は本当に普通で知的に高い人なのです。ですから、時間短縮をして仕事の前後とお昼に45分ほどの昼休みがあれば、会社に行けるというということなった。それまではクリニックの診察室の前で倒れるような人が、それ以後2~3日の休みとそのシフトで元気に働いているわけです。

 

―― 2日か3日お休みして時間を管理してあげると元に戻るわけですね?

 

宮尾 そうです。それまでは仕事から帰っても家でぼーっとして、寝返りも打てないような状態になっていたのに、そこからやがて元気に歩けるようになり会社にも行けるようになったのです。ですから、そのようなサイクルを作ってあげると、彼女のような状態の人も仕事ができるのではないかと思うんです。実際、彼女は知的でとても頭の良い子ですから、疲労さえなければそれまで以上に早く仕事ができます。でも、周りのみんなが夕方の5時まで仕事をしているから、私も5時までいなければならいのかな? という気持ちで5時までいたわけです。そうすると、3時から5時の間にどんどん疲労してしまいます。それが蓄積して倒れてしまった。それから彼女に関して付け加えると、週末も日曜日は絶対に落ち着いてフルに休息をとるようにいっています。遊びに行っても土曜日。平日の酒席もすべて断るようにしています。それほど休息を必要にしているんですね。

 

―― 仕事は午前9時から午後3時まで。でも、午後5時まで仕事をするとクリニックの前で倒れるほど疲労する。それも彼女の特性なのですね。

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