対談 第12回(最終回):こだわりの強い特性は悪いことではない -バランス型の人たちにはできない素晴らしい仕事をする人たち-

対談 第12回(最終回):こだわりの強い特性は悪いことではない -バランス型の人たちにはできない素晴らしい仕事をする人たち-

対談
宮尾益知(どんぐり発達クリニック院長 医学博士)
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岡本孝伸(株式会社ドコモ・プラスハーティ 業務運営部担当部長)

宮尾 こだわりが強すぎて周囲とうまくいかないという点では次のような話があります。実は、発達障害のある子どもにある薬を使おうと思い、その件を子どもの父親に話したことがあります。その際、話を聞いていたそのお父さんは私に、「その薬は何パーセントくらいの人に効果があるのですか?」と尋ねてきたので、私は「75パーセントくらいです」と答えました。するとその父親は「どうして残りの25パーセントの人には効かないのでしょうか?」と再度尋ねてきたのです。

 

――子どもへの投薬の際に父親が効果について尋ねてきたのですね。

宮尾 そうなんです。そこで、私が25%は効かなくても75%には効いているわけですから、効果は十分見込めるわけです。そのことを延々と説明するのだけれど、そのお父さんは納得しないわけです。私も途中で説明するのが面倒になってきたものですから、また改めて説明しますと、説明を打ち切ろうとしたのですが、そのお父さんが慌てて話し始めました。「75%に効く薬だということはわかっているんです。わかっているのですが、効かない25%のことがどうしても気になるのです……」と。結局、そのお父さんにとって、周りの人にはどうでもいいことやマイナーな部分がものすごく気になるわけですね。ですから、私たちが知っているメジャーなことや、誰もが知っている大きな出来事を無視しているんじゃないかと思ってしまうのですが、しかし、そのお父さん同様、実はそれらメジャーなことも大きな出来事のこともちゃんと知って理解をしているわけです。たしかにそうなんですが、どうしても気になる部分があるのです。結局、そのお父さんに対しては、「では薬を使うことを止めましょう」ということになってしまったのですが、結果的に投薬をして治療するという方法は父親のコミュニケーションの結果、断念せざる得なくなるわけです。場合によってそれは失敗につながるかもしれません。とはいえ、そのお父さんも大事なところはしっかりわかって納得しているんですね。でも、私たちから見ると、納得していないように見えてしまうわけです。

 

岡本 そっちの大事な事もちゃんとわかっているからいいです、と。そう思っているのですが、そのことを周囲の人たちに反応してくれないんですよね。むしろ周囲の人たちとは違うところに反応する。その結果、「えっ、反応するところはそっちなの!?」と周囲は驚くわけですよね。

 

宮尾 そうなんですね。ですから、通常の会話なら、「75%の人に薬の効果があるんですか。でも、どうして25%の人には効かないんでしょうね?」と尋ねてくるわけです。このように質問をされれば私たちとしても、回答のしようがありますが、しかし、「75%」をまったく無視してしまって、25%のところだけに注目してしまうわけですから、私たちも前述の例で取りあげたお父さんに対しては、そのように理解してあげなければならないわけです。

 

岡本 ですから、発達障害者の就労を未来志向で語っていく場合、特性を持った人たちのこだわりを少しづつでも理解をしていく必要があります。少なくとも障害者雇用の最前線にいる我々レベルでは理解をしなくてはなりません。もちろん、関わっている人たちは全員が理解していないと、将来に向かった改善はまったく進みませんよね。

 

宮尾 私たちは、自分がわかっていることは、語らなくても相手もわかっていると思っています。しかも、先ほどの例のように、「75%の人にこの薬は効くんですよ」と言われれば「そうですね、たしかに75%効くのならいいですね」と理解しますが、しかし、ASDの人はそこで「いや、でも、25%が……、どうしても気になります」という話になってしまう。普通なら「よく効く素晴らしい薬ですね」といった後に疑問点を尋ねるわけですが、彼らはそうなりません。ですから、職場で仕事をしているときにそのようなこだわりの部分が出てしまうと、「こいつは文句ばかり言っているな」となってしまうわけです。その点を事前に理解をしている必要があるのです。

 

岡本 本当は相互に理解ができるといいのですが……。私たちも相手の特性をわかっているし、相手も自分自身の中にそのような「特徴」というか「傾向」があるということを自覚していても、お互いが自然にそれまでのコミュニケーションで仕事などを進めていくと、途中で「あれ、おかしいな?」と思うことが多いわけです。そこを「意識する」という方法で相互に理解していくしかおそらく方法はないと思います。そもそも、動物である人間が集団でひとつの狭いところに集団になって仕事をしているということが多分不自然なのだと思います。

 

―― 一元管理的な社会の中に多様性を押し込めておくことが不自然だと……。

岡本 そうなんです。会社という形は、群れの形態としては不自然なんです。家族でもない人間同士が一緒に生活しているわけですから。人間は言葉を獲得してコミュニケーションのスキルを磨いてきました。スキルを磨く間には宗教が生まれたりしてきたわけですが、そのような物語を生み出しながら共同体を築き、組織を作って安全を確保し繁栄をしてきたわけです。しかし、その間、やはり自然体ではうまくいかないことも多かったのだと思います。そこから、都市を作ったりしてきましたが、さらにそれらが複雑な社会になってきたので、なおさら相手に対する理解を意識して行っていかないといけないと思うのです。特に、多数が持つ、少数派に対する「普通はね」という意識は、少数派の人たちにとっては居心地の悪いものになってしまうし、少数派の人たちにしてみれば、「わかってくれない」と思うことの方が多いかもしれません。多数派や少数派の間にもこのような軋轢が発生してしまうわけですが、そこでもう一度、動物としての人間がどのように共同体を築き発展し、どのような考え方で都市を造り、その中で人間はどうやって生きてきたのか? といったことを一つひとつ考えながら、宮尾先生が持っているさまざまな知見を加えたりしながら、相互の理解を深めていかなければならないと思います。相互理解を深めるうえではそこに「障害」という概念を持ち込みません。「ある種の傾向を持った人や考え方のある人がいますよね」という発想をしなければならないと思います。そのうえで、自分自身はどのような傾向やパターンを持っているのか? また、あの人はどのようなパターンの人なのだろうか? その場合の特徴にはどのようなものがあるのだろうか? 会話ではどんなところに気をつければよいのだろうか? といったことを就職する人の側も受け入れる側もみんなで学び、自然の流れでコミュニケーションするのではなく、傾向や特性がそれぞれにあるのだということを意識してコミュニケーションをとろうとしなくてはならないと思います。しかし、現状では、ほとんどの会社や組織の中がこのコミュニケーションのところでつまずいています。基本は相手のシステムに合わせてコミュニケーションを図らなければ本当のコミュニケーションがとれていることになりません。これまでの多くの会社や組織ではそれをやってこなかったと思います。ですから、部下に対して「やっておけと言っただろう」といった極めて意識の低いコミュニケーションしか行われてこなかったのです。

 

――「ちゃんと言ったのに、どうしてわからないんだ!」といった会話はよく耳にしますね。

 

岡本 言うことが重要なのではありません。相手に通じること、相手が理解することが重要なことなのですが、会社のシステムの中には上司に評価権と人事権がありますので、上司はどうしても「私のシステムに合わせなさい」と言ってやってきたわけですね。現状のままでは、やはり自分に似たものを自分の周囲に配置してその社員をマネジメントしていくしかないという組織になってしまいます。それではやはりうまくいきません。私たちは本来多様なんです。それらを会社の人たちはしっかり学ばなければならないと思います。そうでなければ組織として仕事をしていくということはできません。多様性を理解することで、一人ひとりが活かされてくると思います。たとえば、細部にものすごくこだわりのある人がいてくれたら、その人たちの細かいところに対するこだわりを活かしたらものすごくいい仕事をしてくれると思うのです。私などは大雑把にしか物事を考えられませんが、その周囲で細部のほころびを埋めてもらえたら本当にありがたいと思います。それらのことをわかったうえで、チームを構成し、全体で仕事の成果を出せば良いのではないでしょうか。

 

――そうですね。社会全体を山にたとえると、相互の理解の度合いは何合目くらいになるのでしょうか?

 

12回にわたってお送りした対談は、これで最終回となります。
過去の対談はこちらをご参照ください。

第1回発達障がいと組織のイノベーション
第2回「うちはいい会社だよ」といってはいけない
第3回「身体のさまざまな領域が伸びる環境作り」
第4回「障がい者雇用で重要な仕事をまかされる新しい形」
第5回「多様化」社会でのルール作り(その1)
第6回「多様化」の社会でのルール作り(その2)
第7回怖いラベリングと薬の話
第8回発達障害の人たちのコミュニケーション —殻から飛び出し周囲の人々の話を聞く習慣が大切—
第9回コミュニケーションスキルを身につけることが重要 —多様な人たちの存在が会社の力を実際に上げてくれる—
第10回発達障害者が増えている問題点と未来志向の解決法 —さまざまなフィールドの人たちと協力しながら治療の幅を広げたい—(その1)
第11回発達障害者が増えている問題点と未来志向の解決法 —さまざまなフィールドの人たちと協力しながら治療の幅を広げたい—(その2)

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